澤田秀雄さん
〒929-0103
石川県能美市五間堂町
TEL 0761-55-1508
かがまるボイス
VOICE
生産農家(元祖・加賀丸いも三代目/能美市)
澤田さん:澤田仁三松が私の祖父です。大正時代に秋田忠作さんと一緒に伊勢から種芋を持ち帰って栽培を始めたのが、今日の「加賀丸いも」栽培の始まりといわれています。祖父は野菜を作るのが好きな人で、伊勢で知り合いから「美味しいから栽培してみたら」と勧められ、家族にも食べさせたいと思って種芋を持ち帰って栽培を始めたそうです。最初は自家用として栽培していたのが、近隣集落でも作るようになっていきました。その当時は「タンコロイモ」や、この畑がある五間堂(ごけんどう)の地名から「五間堂イモ」と呼ばれていました。
五間堂が「加賀丸いも」が最初に栽培された場所であることを伝える看板。
澤田さん:最初は今のように丸い形ではなくて、生姜みたいにゴツゴツしていました。今のように丸く凹凸が少ない山芋が育つようになったのは、昭和9年に手取川が氾濫して、この辺一帯が水に浸かって土壌が変わってからだそうです。私の生まれる前の話ですが、残っている写真を見ると、辺り一面が水に浸かって舟を浮かべています。今ではそんな大洪水は起きませんが、相当な災害だったようです。粘土質の田んぼに川砂が混じって土質がすっかり変わり、その土で育てると今のように丸くて大きな山芋が育つようになったのです。
澤田さんの畑の土は特に砂の割合が多く、サラサラとした質感が高い。「加賀丸いも」は3年サイクルの輪作で、同じ土地で米と交互に作られる。
澤田さん:うちは代々農家をしていて、私も10歳から手伝いをするようになり、大人になってからは外で働きながら兼業農家のように父親の農業を手伝っていました。父は56歳の時に祖父を亡くし、平成8年に亡くなるまで米や芋、野菜などを育てていました。父が亡くなってから私が後を継いで専業農家でやっています。子供の頃からだと、60年以上になるね。以前は私もナス、スイカ、トマト、ホオズキなど、いろいろな農作物を作ってましたが、今は米と「加賀丸いも」が主です。妻と2人でやっているから、できる範囲だけど。今は機械を使って農作業ができるようになったので、昔に比べて随分楽になりましたよ。だから夫婦だけでもやっていけている。いずれは息子が引き継いでくれたら嬉しいけど。
間もなく収穫作業が始まる澤田さんの畑。収穫前に支柱を抜いたり、枯れた蔓を除去するのは全て手作業。芋も一つひとつ手掘りしている。
澤田さん:土質も関係するけど、70%以上は天気に左右されますね。消毒や肥料より、8月の天気が一番影響します。この芋はあまり水が必要ないので、特別暑い日が続いてカラカラにならない限り水やりもしなくていい。土の表面が乾いていても、内部に水分があるから。逆に雨が続いたり、日照不足だと良くない。
形もただ大きければいいわけでなく、ちょうどいい大きさで、形がきれいなものを目指しています。売る時に箱に納めやすい大きさもあるからね。掘ってみるまで出来がわからないけど、どんな芋が出てくるかいつも楽しみです。大きかったり、小さかったり、形もそれぞれ違っていて、人と一緒で顔が違って個性があるのが面白い。
人と一緒で一つひとつ形も大きさも違い、個性があるのがいいところ。「どれも大切に育てた可愛い我が子」と澤田さん。
澤田さん:10年ほど前になるけど、番組が終了する3回前の放送かな。麦とろ飯と、そうめんの対決で。麦とろ飯のとろろ芋に、私が作った「加賀丸いも」が使われたんですよ。栽培農家として私も取材を受けました。あの時は、とろろに色々な具を混ぜていたけど、私はシンプルな食べ方が好きだけどね。
澤田さん:いろいろな食べ方があるけど、個人的に一番好きなのは「加賀丸いも」 をすりおろして、砂糖と酢を入れてよく混ぜたとろろ。甘酢味のとろろは、40年くらい食べ続けてます。そのおかげか元気で今もこうして畑仕事ができてる。酢のおかげでさっぱりするし、喉越しもよくて夏の食欲がないときも、するするっとご飯が食べられる。「加賀丸いも」は腹持ちもいいしね。
あとは、「加賀丸いも」100%の生地で作るお好み焼き。粘りが強いから、出汁を少し多めにして、もんじゃ焼きのようにするのがおすすめ。ピザ生地にすった芋を広げて、チーズや具をのせて焼いても美味しいし、海苔に巻いて磯辺揚げにしてもいい。酒のつまみにも、食事にも合うから「加賀丸いも」は年間で40kgくらい食べていますね。
団子汁を作るときも、冷蔵庫ですった芋をねかせから使うと形が崩れにくくなるそう。
「加賀丸いも」1/2個をすりおろし、砂糖大さじ1〜2、酢をひたひたになる程度加えて混ぜ合わせた甘酢とろろ芋が、澤田さんお気に入りの食べ方。酢の物感覚でさっぱりと食べられる。
澤田さん:栄養があって身体にいいので、年配の人にも若い人にも末長く食べてもらいたい。特に食が細ってきた高齢の人も、するすると食べやすいのでおすすめです。生産者も高齢化して以前よりも作り手が減ってきていますが、20代〜40代の若い生産農家も出てきて頑張っています。これから少しでも継承してくれる人が増えてくれたら嬉しいですね。100年続いた歴史を守り継いで、たくさんの人にこの先も「加賀丸いも」を食べて喜んでもらいたいですね。
「加賀丸いも」を絶やすことはできない。身体が動く限り、作り続けたいと語る澤田さん。