かがまるボイス

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坂井浩明さん(八松苑株式会社)

坂井浩明さん

料亭(八松苑/能美市)

街道の茶屋として創業し、およそ150年の歴史がある老舗料亭「八松苑」。海、山、里の豊かな食材に恵まれた加賀・能美の地で、その食材を活かした「のみの菜」というオリジナル料理ブランドも展開しています。そんな「八松苑」の八代目で、ご自身も料理人である坂井浩明社長に「加賀丸いも」料理について、お話をうかがいました。

「八松苑」の坂井浩明社長

庭を案内してくださった「八松苑」の坂井浩明社長。

「加賀丸いも」は、どのようにお料理に使われていますか?

坂井さん:「八松苑」は結婚式や結納、法要などの冠婚葬祭から、会社やグループでのお食事会、茶事、宴会など、さまざまなシーンでご利用いただいています。「加賀丸いも」はフルコースや特定のメニューがあるというよりも、いろいろな料理に食感や味わいを活かす形で盛り込まれています。

彩り豊かで美しい料理

彩り豊かで美しい料理に、「加賀丸いも」がさりげなく使われている。

特に別庵の食事処「元正庵」では、よく使う食材です。蒸す・おろす・汁に落とすが基本的な調理法で、すったものを魚のすり身と合わせて蒸したり、とろろを蕎麦にかけたり、用い方はいろいろありますが、私が思う一番美味しい食べ方は、生の食感を活かすことですね。同じ生の状態でも、すりおろしてツルツルとした食感にするほか、包丁の背でそいだり、刻んでシャキシャキとした繊維の歯ごたえを残したり。食感で幅広い表現ができ、さらに味付けやアレンジでバラエティ豊かな料理が生まれます。

街の喧騒を離れ、静かな佇まい

街の喧騒を離れ、静かな佇まい。厳選された食材を用いた料理とおもてなしで迎えてくれる。

よくお出ししているのが、「黄身寿司」という料理です。「加賀丸いも」を蒸したものと、ゆで卵の黄身だけを裏ごしして酢・砂糖・塩を加えてこねます。これを寿司飯の代わりにして魚をあしらったり、イクラを彩りにのせたり。蒸し海老の中に鋳込めば、黄色と赤のコントラストが美しい一品ができます。サヨリ・海老・三つ葉で巻いたものや、蒸したものに具材を詰めて油で揚げたものも美味しいですよ。

別庵のお食事処「元正庵」

別庵のお食事処「元正庵」では、ランチや夜の会席料理が楽しめる。

調理する上で他の芋と違いはありますか?

坂井さん:長芋の場合はすりおろしたものを蒸して豆腐のように固める調理方法がありますが、「加賀丸いも」はとても粘りが強いので、長芋のようにすり流す調理法には向いていません。出汁を加えてのばしたりしますが、つなぎに使ったり、モチモチとした食感やしっとり感を出すのに有効な芋といえます。

椀ダネは「加賀丸いも」にすり身、カニを合わせて蒸し上げたもの

椀ダネは「加賀丸いも」にすり身、カニを合わせて蒸し上げたもの。加賀の名産「加賀丸いも」と「カニ」が一つの椀の中でコラボレーションしている。

「加賀丸いも」は昔から地元でよく食べられていたのでしょうか?

坂井さん:大正時代から栽培が始まったものなので、江戸時代の古文書を見ても「加賀丸いも」の料理は出てきません。高級食材として流通してきたので、一般家庭で頻繁に食べるものではなく、料亭や和菓子で食べるイメージがあると思います。家庭で食べる場合も、とろろ芋や団子汁など、ポピュラーな食べ方が中心ですね。

高級食材といわれる理由の一つが、料亭料理や和菓子では、白く美しく仕上げるために形が丸い上質のものを選び、さらに皮を大胆にむく必要があるためです。丸く形のよいものは希少で高価なため、ふんだんに使うことが難しいのです。家庭料理なら多少デコボコしたものでも大丈夫ですし、栽培農家さんからレシピなども情報発信されているので、最近は気軽に食べられるようになってきています。

よく使われるのは、地元の食材だからということもありますか?

坂井さん:「加賀丸いも」は地域の大切な宝ですから、大切に後世へ伝えたいという思いはありますね。食材に恵まれた土地なので、他の食材もできるだけ地産地消を心がけています。「のみの菜」というブランド名で、能美の産物として愛されてきた食材に、料理人たちの創意工夫を吹き込んで、現代にマッチしたメニューを提案しています。素材の持ち味を活かしたシンプルな食べ方と、驚きや発見、感動がある料理をご提供するように心がけています。また、この地域で採れる野菜や旬の魚介、地酒などを味わっていただく食のイベントなども定期的に開催しています。

南加賀地区の食を楽しむイベントのフライヤー

野菜ソムリエのトークも盛り込まれた、南加賀地区の食を楽しむイベント。

「八松苑」で「加賀丸いも」をよく使うようになったのは、30年ほど前、私が大阪の修行から戻ってきてからになります。全国的にも「加賀丸いも」は知られており、私が修行していた大阪の料亭でも、女将さんが石川県の出身だったこともありますが、当時からよく使われていました。故郷の食材に注目するようになったのは、大阪での修行時代の影響もあるかもしれませんね。

「加賀丸いも」は全国的にも認められているのですね。

料亭などではよく使われていますね。以前、視察旅行で秋田県の乳頭温泉を訪ね、驚いたことがあります。そこの名物料理が大和芋で作った団子汁で、実は能美市の根上から仕入れた「加賀丸いも」を使っていたのです。現地で採れる芋だけでは必要量をまかなえず、石川県の「加賀丸いも」は、質もよいので年間1t以上も仕入れていると話してくれました。囲炉裏の自在鉤に鍋を吊り下げ、味噌仕立ての汁に芋をすったものを落とした団子汁で、とても美味しかったのを覚えています。寒い季節にはこうした食べ方が合いますね。味噌ベースの鍋に生姜をきかせて、「加賀丸いも」の団子汁にするのもおすすめですよ。

冷暗所におけば一年を通して保存もきき、幅広い料理に使える使い勝手のいい食材です。滋養強壮にもよいので、多くの方に食べてもらいたいですね。

坂井浩明さん

八松苑株式会社

〒929-0115
石川県能美市下ノ江町申8
TEL:0761-55-0248
FAX:0761-55-4380

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